1/26/2009

企業戦略

出典)

http://business.nikkeibp.co.jp/article/pba/20090114/182647/

これからの成長は「拡大」ではなく「価値創造」と「永続性」です


「強い社員」の作り方を考える人事・座談会(後編)

永禮 弘之  【プロフィール】
人材 オフィス 野村証券 日本テレコム リーマン・ブラザーズ マクドナルド 野々村人事部長
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 前回に引き続き、これからの強い社員とはどんな社員なのか、また育成していくためには何が必要なのかを、野村証券人材開発部の水野貴司氏、32年間マクドナルドに勤め現在は株式会社人財ラボで人財開発を手掛けている下山博志社長、大手通信事業会社にてプロジェクト制度の導入やプロフェッショナルの育成に従事した株式会社アプランドルの西村明子社長の3人に座談会形式で伺いました。

「楽しい」がなければ仕事はできない

永禮(ながれ):西村さんはプロフェッショナルな人材が働くためのオフィス環境作りも手掛けたそうですが、環境作りで大切にしていた部分を教えてください。

西村:一番の根底にあるのは「楽しさの実現」です。人にもよりますが、自分自身の成長を実感したり、悩みを打ち明けられる仲間を作っていくことも楽しいですよね。誰かの役に立った、誰かから求められた以上の能力を発揮できたという瞬間も楽しいです。また「気持ちがいいオフィス」「机がきれい」など視覚的な要素も入ってくると思っています。

 最近はコラボレーションというキーワードもよく出てきますが、コラボレーションの定義は目的を共有して活動を同期化することです。そのためには社員がオープンにコミュニケーションを取れる環境が必要になってきます。
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永禮:ところで、これまで話題になってきた「プロ」って一言で言うとどういう人ですか?

西村:私自身は成功体験にあぐらをかかずに成長し続ける人だと思います。既成概念にしばられることなく自分を高めることに取り組んで、誰かにそれを提供することに喜びを感じられる人でもあると思いますね。本当のプロは、自分の芸でお客さんを楽しませることができる人ですね。

 いいものを作り出すために仲間と切磋琢磨している時間は最高の時間ではないでしょうか。それをお客様と楽しんでできる人をプロと呼びたいです。

自分の机も紙の資料も持てない環境がコラボを生む

水野:西村さんはプロフェッショナルな人材を育成していくためにプロジェクト制を導入したのですね。次に制度を浸透させるために社内システムを一新し、システムを有効活用できるオフィス環境を整えたというわけですよね。一連の流れを作ったのは本当にすごいことですね。

 でもプロジェクトが終了すればチームも解散するという制度の中で、どうやって仲間意識を持たせていったのですか?

西村:いい仕事やいい環境を提供することはできますが、それを生かして作り上げていくには個の力が必要になってきます。けれど個の能力にフォーカスした報酬制度や評価制度を敷くと、自分自身の能力を高めることを優先してしまいます。チームの一員として最高のアウトプットをする人がプロフェッショナルと言えます。結果を出せば、別のプロジェクトにも呼ばれ新しい学びを得ることができるのです。

 一匹狼にならないよう業績の評価はチーム単位で行うようにしました。チームで結果が出なければあなたの業績は上がりませんという形ですね。プロジェクトはもともとチーム単位で取り組んでいますから、メンバー全員がよい活動をしないと結果が出ないんですよね。

 プロジェクト制はリーダーの影響力が大きいのでリーダーシップ開発の研修は重視しました。いいリーダーの下で働くとメンバーも育っていくんですよね。

 プロジェクト制がリーダーをうまく育てた仕組みの1つだったとも思います。

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プロが集まる職場では「管理監督」はいらない

NBO:上司の人にずっと見られているわけではないからいいですね。

西村:プロである以上タイムマネジメントも自分で管理するようになります。プロジェクト制にした時点で、上司が管理、監督するマネジメントシステムではなくなるので、自己管理が本当に大切になってきます。

 管理職になると自分の城を作って横とのリレーションを作らなくなってくる傾向があるので、リーダー同士は同じ場所に座ってもらいました。隣のリーダーから学んでいきましょうと。デスクも円形で周りの社員たちから見られている格好になるので、金魚鉢って呼ばれていましたね。

永禮:自分の机もなく、紙の資料も保管できない。勤怠管理も自身の裁量になって、今までの自分の働き方を見直さなければならず、モチベーションが下がった社員はいましたか?

西村:もちろんいたと思いますが、アンケートを取ってみると環境が変わったことによってモチベーションが上がったという意見の方が明らかに多かったです。皆、きれいなオフィスで仕事をするのは楽しかったようですね。

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下山:新しい制度や文化を浸透させるのは一筋縄ではいかないですよね。うまく機能させていくには時間も必要ですし。

永禮:そういった意味では、人と人とのつながりを重視する文化を持つ野村が、自分の腕で勝負するみたいな文化で働いてきたリーマン・ブラザーズの社員たちを受け入れるっていうのはとても興味深い話ですよね。

様々な文化を持った社員たちと融合していく

水野:社長の渡部(賢一)は「ワールドクラス」「変化を作る」「スピード」の3つのキーワードを掲げています。今の野村に足りないところを補うためにリーマン・ブラザーズを承継したわけですから、優秀な社員たちと協力して、「新・野村」としてワールドクラスの商品やサービスを作っていきたいですね。

NBO:社内の反発とかはなかったんですか? 理解は得られているんですか?

水野:ほとんどの社員は新聞で今回の件を知ったので、驚きが大きかったですね。理解しているというより、特許とかがない世界なので、常に新しい何かを作っていかないといけないという危機感を皆が持っています。野村にも海外拠点はあり、約4000人の社員がいました。今回の承継で約8000人の社員に一気に増えたわけですから、社長が言っていた「ワールドクラスの商品とサービス」を作れる環境が十分に整ってきたという感じです。

 金融業界として見ると、再編や合併は日常茶飯事なので、それが自分の会社にもきたととらえています。

 人事としては、研修はどうするんだとかありますが、変化の中にいるので走りながら考えていきたいです。

永禮:お互いに個性があってそれが優れているがゆえに今回の受け入れは今後も注目していきたいですね。日本経済と一緒に大きくなった野村グループがリーマンと融合して強くなってくれたら、本当に素晴らしいことだと思います。

水野:リーマン・ブラザーズの社員だけでなく、いろいろな価値観を持った人たちに入ってきてほしいですね。先ほど言った変化に対応できる人材が増えれば、新しいことに挑戦できる機会も増えてきます。企業の文化を大切にし、価値観や変化に対応できて挑戦し続ける人を育てられる環境作りをしていきたいですね。

永禮:下山さんはマクドナルドでもいろいろな変化を見てきたと思いますが、外に出てから改めて気づいたことって何かありましたか?

 評価の方法の見直しも必要です。会社のビジョンを理解し行動に移せる能力を高く評価し、それに対する価値を上げている人材ももっと評価してほしいですね。人が変われば企業は変わります。

永禮:人事や管理職ではない一般社員の人たちが今できることはなんでしょうか?

「自分の幸せ」を考える

下山:水野さんや西村さんもおっしゃっていたように自分のことばかりに目を向けていては、自身の成長も仕事の成功も限られてきます。短期では成功しますが、相手を尊重しお互いの能力を引き出していかないと、組織で成果は上げられません。

 個人の能力ってとても大事ですが、視野はもっと広く持ってもいいと思います。会社全体を見ることも、自分が世の中からどう見えているのかを考えることも必要です。今のように負の要素が多いと、どうしても視野は狭くなりがちですが、どの位置にいるのかをゆとりを持って見てほしいと願います。

NBO:客観視することで見えてくるものはたくさんありそうですよね。

下山:「私はどうやったら幸せになれるのか」。昔だったら「何言ってんだ」と一蹴されてしまうことも、今は堂々と言える時代です。

 何のために仕事をしているのか。生きがいのある仕事は何か。幸せな仕事は何か?

 60歳の社長でも「幸せに生きていくためにはどうすればいいのか」って言ってます(笑)。そうやって考えると、年長者も新入社員も根底に持っている価値観は同じなんですよね。自分の人生を幸せに生きるために必要なことは何なのか、できることは何なのか。真剣に考えてみることっていいことだと思いますし、それが幸せにつながっていくと信じています。


(出典)

http://business.nikkeibp.co.jp/article/pba/20090114/182637/


野村證券・マクドナルド~いまだから聞きたいトップ企業の“社員の作り方”

「一番稼ぐ社員が偉いわけではない」人事・座談会(前編)
永禮 弘之 秋元 志保 【プロフィール】
人材 育成 野村証券 野々村人事部長 マクドナルド
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 100年に1度の不況と言われている今、企業が永続していくには、顧客に価値を創造し提供する社員たちが、お互いの力を引き出し合う「強い社員」になることが求められています。では、強い社員とはどんな社員なのか、育成していくためには何が必要なのか。

 今回は日本市場のトップを走り続ける野村証券の人材開発部の水野貴司氏、32年間マクドナルドに勤め現在は株式会社人財ラボで人財開発を手掛けている下山博志社長、大手通信事業会社にてプロジェクト制度の導入やプロフェッショナルの育成に従事した株式会社アプランドルの西村明子社長の3人に座談会形式でお話を伺いました。

インストラクターは名誉職

永禮(ながれ):世界中が不況の波にのみ込まれている今だからこそ、企業における人材の重要性や育成のあり方が問われてきていると思っています。

 元リーマン・ブラザーズ社員を受け入れた野村証券さんはこれから2つの文化を融合していくことになりますが、現在の野村グループにはどのような育成制度があるのでしょうか。

水野:今野村の人材開発部では、約30人のスタッフで主に国内の野村グループ1万7000人の研修を行っています。スタッフは現場で専門分野に関わった人間が集まっています。基本はジョブローテーションなので、人材開発部に在籍し続けることはほとんどありません。現場経験を持った社員が集まり、その経験を活かしながら人材開発部で育成の仕組みを考えています。

 野村の育成制度で特徴的なのはインストラクター制度ですね。新人一人ひとりにインストラクターと呼ばれる3年目から7年目ぐらいの先輩が1年間つきっきりで仕事を教えます。寮が一緒の場合は、公私問わず何から何まで教えるといったところでしょうか。

永禮:つきっきりで仕事や私生活の面倒を見るのは大変ですよね。インストラクターとして新人を指導する社員には何か特別な待遇などは用意しているのですか?

水野:特別な報酬はありません。若手にとってインストラクターになることは名誉なことですし、インストラクターには優秀な社員が選ばれてきました。インストラクターという地位と、新人を育てるという権限を与えられて、親が子供を育てたり、兄が弟の面倒をみるように育成をしていき、先輩に教えてもらったことを次の後輩に伝えていくんです。そんな仕組みが30年以上受け継がれています。

NBO:メンターとはまた違うんですよね。いわゆる先輩が後輩を指導していくってことですよね。

水野:そうですね。3年から7年目ぐらいの社員の中から、インストラクターにふさわしい社員を支店であれば支店長が指定し人事部が適当と認めた場合は、社長がインストラクターとして委嘱して1年間新人の育成に携わってもらうんです。

 また、営業専門職であるFA(ファイナンシャルアドバイザー)社員にはFA育成担当者制度があり、2年間新人の育成に携わります。

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新しい評価基軸がないと育成はできない!?

下山:評価の基準に売上や利益が入っているのは当然ですが、能力評価でも売上や利益を重視する項目が多いですよね。私が在籍していた当時のマクドナルドでは、人を育てるという評価が優先順位の1番でした。人が育つから品質が上がって利益も出せる。会社のルールも高いレベルで守られる。売上と利益があっても人が育ってないと評価されませんでした。退職率が高いと評価に影響しました。

 ところが、退職してからほかの会社を見るとチームワークや育成に関する部分はあまり評価していないなと感じました。

 日本の企業は、成果主義の導入に代表されるように高い業績を出した人が評価を受けてきた傾向がありましたが、これからはもっと違う評価基軸を作っていかないと人を育てていくことができないんじゃないかなと思います。

永禮:具体的にはどんな基軸が必要になってくるんですか?

下山: 私が考えている評価軸は2軸あって、「会社の価値観を理解して行動する能力(バリューとアビリティー=潜在能力)」、もう1つは「パフォーマンス」です。

 パフォーマンスは売上や利益もありますが、それを生み出す優秀な人材(ハイパフォーマー)を育てることです。多くの会社ではこのような部分を評価していると思いますが、足りないのは「会社の価値観を理解して行動する能力(バリューとアビリティー)」への評価ですね。

 高い業績を出している人を評価するのが間違いだと言うのではなく、それだけでは永続的な企業にはなれない時代だと思うんです。

 会社の価値観を理解して行動している社員を評価していかなければ、掲げた目標に到達することもできません。

 現実問題として売上がないと存続することも危なくなるので、売上や利益が入ったパフォーマンスは評価の軸として必要であることは確かです。どの企業も時代の変化に対応していける強い組織を目指しています。ですから2つの軸が評価にはあるべきだと思います。

永禮:西村さんが経験された通信事業会社では、こういった育成への評価はどのようにしていましたか?

人に教えられてこそプロの「芸」

西村:そうですね。人ってなかなか自分の持っている情報や知恵を出さないですよね。特に仕事をうまく回すテクニックを詳細に語る人はあまりいないです。それがプロだと言う人もいますが、お客様にとって一番いいサービスやパフォーマンスを出すためにはたくさんの情報が必要です。1人の持っている情報や能力だけでは限界があります。

 組織から見ても、高い能力を持った人間のスキルを共有しないのは、とてももったいない。ですから、情報を引き出し、共有する仕組み作りが重要だと考えました。蓄積されたノウハウは会社の財産にもなりますし、お互いに刺激し合うことで会社全体のレベルアップにもつながりますからね。

 その会社では、お客様に出した企画書や計画書をすべてデジタルでデータベース化することが、プロジェクトリーダーの責任とされていました。半年に1回、特筆すべき成果をおさめたプロジェクトの表彰を行う、あるいはプロジェクト報告会を開くことで、データベース化した情報の活用を促進する働きかけも行いました。

永禮:情報を共有する仕組みは作ったものの、それを活用していかなければ意味がありませんよね。

西村:野村証券さんのインストラクター制度のように、自分の持っているものを自分の言葉に換えて、第三者に伝えることが一番自分にとっての学びが大きいんですよ。誰にも真似できない一人一芸はもちろん大事ですが、まずは持っているものを人に伝えることで、自分の「芸」を作りだすことが重要です。

 新人研修などはまさにそれに当てはまります。先輩の背中を見て後輩が育っていくんですよね。インストラクターになった先輩は大変ですが、試行錯誤する中で自分も一緒に成長して、リーダーとしてよい風土を広げていけるのが理想です。

永禮:仕事の暗黙知を形式化できて初めて芸だと。抱え込んでいるうちはまだ芸とは言えないってことですよね。

西村:学んだことを周囲と共有する。共有してみんなに使われないと、新しいものをインプットして自分を成長させることはできません。同じ場所にとどまっていられないように、得たものを出していく。情報の共有化は社員の成長のためにもなるんです。

下山:これまで人材開発の世界は成果が出せる優秀な人材を育てるという、個人成果や競争みたいな部分が喜ばれていましたが、今は一人ひとりの能力よりチーム全体の能力を引き上げるとか、コラボレーションしていくといった「共創社会」へ明らかにシフトしていっていると思うんですよね。

永禮:一番稼ぐ人が一番偉いわけではない?

水野:稼ぐ人は偉いですが、稼ぐことのみで評価されることはありません。一人でずっと稼ぎ続けることは難しいですが、周りと協力し合えばいいビジネスやいい関係を続けていくことはできるんです。自分勝手なビジネスではなく、周りと協力し合ってお客様のことを考えた提案をしていけば、お客様の満足度は高いですよね。お客様に喜んでもらえるサービスを提供できる会社が伸びていくと考えています。お客様基準で長期的に関係を持続させることが何より重要です。自分だけがよければいいという世界は長くは続きません。

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水野:常にお客様第一という事を忘れずに努力しているからだと思います。お客様が描いている人生に寄り添っていける方法は何かを考えていくと、自然と長期的な関係を築いていくことがお客様にとって一番よいことだという結論に至るんです。
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西村:価値観の統一って本当に大切ですよね。

永禮:価値観の統一と近いのですが、理念伝承って社員数が増えるほど難しくなってきますよね。マクドナルドではどういうふうに理念を伝達していったのですか?

 マクドナルドは、マネジメントが直接従業員を一堂に集めて、ダイレクトコミュニケーションを行う「コンベンション文化」でしたね。そういった意味では従業員数は膨大でしたが、理念は末端のアルバイトにも伝えられていけたと思います。

永禮:トップが交代すると経営方針も一新する場合がありますよね。西村さんは通信事業会社では、新社長の下でプロジェクト制度を導入したそうですが、どうやって社員たちの意識を変えていったのですか?

プロフェッショナル意識の確立

西村:当時社長に就任された倉重英樹氏(現シグマクシス代表取締役CEO)が「プロフェッショナルな人材を徹底的に育成していく」という方針を出し、オフィスの内装から社員のワークスタイルまで変えてしまうという一大プロジェクトを行いました。

永禮:具体的にはどのような取り組みをしたのですか?

西村:プロジェクト制の導入です。これまで縦割り組織で定型業務をやっていた人たちに、一人ひとりがプロとしてチームに加わり、能力を発揮して、プロジェクトが終了したらチームを解散して、別のプロジェクトに参加するというシステムです。

永禮:社内の壁を取り払うというようなものですね。

西村:そうですね。でも、組織の壁を取り払って仕事をする環境づくりのために、フリーアドレス制を導入し、全員統一のパソコンを配布して情報をすべてデジタル化する、といった施策には反発もありましたよ。

 一番大変だったのは、個人の主体性を引き出していくことでした。プロジェクトチームの一員として持っている力を出すには主体性がとても重要になってきますが、自ら情報発信をする姿勢を育てるには時間も仕組みも必要です。

 さらに、プロジェクト制で仕事を動かしていくには、管理システムや社内インフラの整備も同時に行っていかないと、制度に対する理解も対応も悪くなるので、環境を整えることにもかなり力を注ぎました。

永禮:事務系の仕事もプロジェクト制になったんですか。

西村:いわゆる事務職と呼ばれる管理業務もすべてプロジェクト制になりました。あらゆる仕事にプロジェクトリーダーがいる。お客様(サービスを提供する相手)を背負った人間がすべてを取り仕切るリーダーという考えですね。まさに「社員が偉い」ということなんですけれど(笑)。

 肩書きがある人間がリーダーではなく、お客様の期待を理解してそこに対してサービスを提供できる人間がリーダーになるんです。「顧客からお金をもらって仕事をする」というプロの自覚を持つには、プロジェクト制はとても有効でした。それを全社で取り組んでいけたことは本当にユニークだったと思います。

永禮:下山さんがマクドナルドに勤めていた頃にユニークだなと思ったマクドナルドならではという仕組みってありましたか?

育成の基本は「小さなところ」を褒めていく

下山:私の経験したマクドナルドは、人間関係をとても重視していましたね。今では珍しくありませんが、入社した30年以上前から誕生月同士の会を作り特別なお祝いがありましたし、奥様の誕生日でも花が贈られたりしていましたね。

 社内で就業後にお酒を飲みながら、従業員同士がコミュニケーションをとることができる「ビアバスト」という日もありました。このように人と人をつなげることをとても大切にしている会社でした。いる時は当たり前の仕組みでしたが、今考えてみると、他にもコミュニケーションやロイヤリティを醸成するユニークな仕組みが至る所にあったなと思います。

永禮:マクドナルドってマニュアル文化というイメージが強いんですけど、従業員に対する接し方にもマニュアルって存在するんですか?

下山:台本みたいなマニュアルはありませんが、通常のコミュニケーションの中で相手を認めるということに関しては徹底していました。

 例えば従業員同士でも「おはよう」と言うだけじゃなくて目を見て挨拶しようとか、おはようと言った後に「今日も頑張ろう」と言葉をつけるようにするなどです。簡単ですが、コミュニケーションの輪はそういった小さなところから広がっていくものです。

永禮:褒め方とか叱り方への教育はあったのですか?

下山:上司が部下を褒めたり叱ったりする教育には時間をかけていました。「いいね」「頑張って」という抽象的な言葉だけでなく、褒める時は具体的にその場でみんなの前で褒める。誰の目から見ても分かるような大きなことはもちろんですが、ちょっとしたことを褒めなきゃいけないんですね。

 それから成長の過程を褒める。これは上司の基準までいったら褒めるのではなく、みんなが認識している基準に達したら褒めるんです。

 小さなことを褒めるのは相手をよく見ていないとできません。でも一緒に働くということは相手を見るということなんです。

永禮:叱り方はどうですか?

下山:褒めると同じで、その場で具体的に指摘することです。褒める時と違う点は、みんなの前ではなく個人的に話すことと、相手の言い分を必ず聞くことです。

 叱りっぱなしはダメです。「どういうふうに感じたの?」「今の話を聞いてどう思った?」など相手に話す時間を与えるんです。3割叱って7割聞く。でも難しいですよ、これ(笑)。

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