(出典)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090401/190766/
2009年4月3日(金)
実は、日本の投資家は「社会貢献」で先端を走っている
ケン・レイ世界銀行副総裁インタビュー
広野 彩子(日経ビジネス記者)
世界銀行 ワクチン債 クールボンド 貧困国支援 SRI
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世界を不況のどん底に突き落とした金融資本主義に対して厳しい視線が注がれている。だが、一方で、環境関連の投資信託やワクチン債、クールボンドなど、社会貢献に役立てる「金融商品」もあり、静かな広がりを見せている。こうした商品への投資は、社会的責任投資などと言われる。
社会に役立つ投資だからと、収益をあきらめる必要は必ずしもない。場合によっては社会的責任投資の方が、収益性が高くなる可能性すらある。
世界での投資規模は、欧米の年金基金などが圧倒的に主力だ。日本SRI年報2007によれば、 2005年時点で米国では約270兆円、欧州では約150兆円の市場規模を誇る大きな市場だが、日本では2007年時点で0.8兆円程度に過ぎない。だが、個人向けで目立って資金を出しているのは、実は日本人の個人投資家である。
こうした個人向け“社会貢献債券”発行に深くかかわり、世界銀行の資金調達に関する最高責任者であるケン・レイ副総裁に、社会に貢献する投資の現状を聞いた。
(聞き手は日経ビジネス記者 広野彩子)
――日本の個人投資家が、社会貢献的な投資で目立っているそうですね。
ケン・レイ世界銀行副総裁 (写真:山田 愼二)
レイ副総裁 社会を良くする事業や企業活動に投資する持続可能な社会的責任投資(SRI)は、非常に速いスピードで発展してきました。規模が大きい市場で、しかもこの分野の動きは非常に速いのです。そして実は、個人投資家レベルでは、世界で先頭を走っているのは日本の投資家なのです。日本の個人投資家は、この分野について極めて意識が高いのです。
2009年2月上旬に、IFFIm(イフィム=国際金融ファシリティ)という国際機関が、大和証券を通じて「ワクチン債」(注)を日本の個人投資家向けに発行したところ、約400億円を調達できました。途上国の子供たちに、ワクチンを接種する事業に特化した資金調達です。これは昨年に引き続き発行されたものですが、投資家向けの説明会等でも非常に関心が高かったと聞いています。
社会貢献の事業資金を債券発行で調達
ここ数年、投資の世界では、社会貢献に関心のある個人投資家レベルだけではなく、機関投資家のレベルでも、(どこの組織に投資するかよりも)投資した資金がどう使われるかに、関心が高まってきました。
最初の頃は、SRIは非常に限られたもので、利益をあきらめなければならない投資だと見られていました。しかしながら、今、株式市場では、優れたコーポレートガバナンス(企業統治)や環境への対応が、実際に企業収益を高めるという事実にますます注目が集まっています。
――レイ副総裁は、日本とのかかわりが長いですね。
レイ 個人的なことですが、私は世界銀行で、1983年初めから日本での資金調達を担当しています。日本の投資家やディーラーと仕事をしている時から、SRIへの市場の関心は徐々に高まっていきました。ワクチン債は、こうした事例の1つですが、最近になり、地球温暖化問題がこの分野への関心の高まりを一段と促すことになったのです。
2006年に大和証券SMBCと共同開発した「クールボンド」も、構想はありながら長い間実現しなかったものでした。中国のある水力発電施設が稼働することで、二酸化炭素の排出削減が実現して排出権が生まれます。その後さらに排出権の市場価格が上昇すれば、受取金利の上昇が期待できる、という商品でした。1度目は大和証券グループが組成したSPC(特別目的会社)が発行しましたが、個人投資家からの反響が大きく、2008年には世界銀行が個人投資家向けに発行しました。これも、投資家が「私は二酸化炭素削減のために資金を投じて貢献している」とはっきりと言える商品です。
地球温暖化対策にも民間資金が必要に
また、オランダでは環境によい活動を行っている企業群(いわゆるグリーン企業)の株式インデックスに、クーポン(利子)が連動する仕組みの世銀債を発行しました。そしてつい最近ですが、スカンジナビア半島の国々でも、調達資金が世銀の特定の環境関連プロジェクトのみに使われるという条件で、新たな投資家層の需要を開拓しました。
私はこうした取引を、ある種の実験と考えています。長期的な目的は、社会貢献的な活動が重要性を増す中で、その資金調達をサポートできるような新たな金融資産の創出にあります。その意味で、「ワクチン債」は、SRIに熱心な投資家に、とても向いている新しいタイプの金融商品と言えます。
――ほかには、どのようなものがありそうでしょうか。
レイ 例えば地球温暖化は世界にとって大きな試練です。世界中の人々が、気候変動と戦うための公的資金が必要だ、と考えているのではないかと思います。つい最近、世界銀行は日本を含む多くの政府から約60億ドルを拠出してもらうことになりました。これは「気候投資基金(CIF)」と呼ばれています。他の国も、こうした取り組みに対して公的資金を投じつつあります。
SRIの方が利益が出る可能性も
金額が一見大きく見えても、問題全体の大きさからすればまだまだ小さいと多くの人が感じるのではないでしょうか? 気候変動への対応には、公的資金だけでなく、究極的には民間セクターからも資金調達が必要です。そのためには、気候変動に投資する投資家に適度なリターンとリスクをもたらすような金融商品も、開発されてくるだろうと思います。
そうなれば、市場の流動性確保にも役立ち、必要な資金をスムーズに調達できるようになります。
多くの機関投資家や個人投資家が、社会的責任を果たす投資には、単なるお金のリターンを超えたリターンがあると考え始めているのです。これはすべての市場参加者にとって、喜ばしいことと言えるのではないでしょうか。
――社会貢献のための投資から得られるリターンの方が高い場合もあるそうですね。
レイ 私もそのような話は聞いたことがあります。自分の目で数字をしっかり確認したわけではないですが・・・。株式市場の崩壊が進む中、米国でも非常に著名な、未公開株式に特化している投資信託の運営者と話した時のことです。この状況でどう運用しているのかを聞いてみたのです。すると彼の場合はですが、株式ポートフォリオは他の投資家と同様に打撃を受けているが、社会貢献的なポートフォリオは、一般的なポートフォリオより成績が良かったというのです。
これは決して一般化はできませんし、あくまで例の1つです。でも、SRIを選択肢に入れるに当たり、こうした投資家の動向をじっくり観察するのも、悪くはないでしょうね。
(注)ワクチン債:2009年2月上旬に大和証券から販売された。南アフリカランド建て(利率6.26%)、ニュージーランドドル建て(利率2.65%)、オーストラリアドル建て(利率2.60%)の3種類。日経ビジネス2009年4月6日号「旬のキーワード」で解説しています。
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