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10/21/2009

オスはダークな面を持つ

天使と悪魔 - ダン・ブラウン

聖母マリアとマグダラのマリア - ジーザス・クライスト

オスはダークな面を持つ。同盟を組んで、メスを拉致する -> まるで、どこかのエロじじいのようだ、笑い


 私たちは、トリップス、バイト、セタス、ヨギを観察して、オスの過激な攻撃性に驚いて途方にくれた。シャーク湾のイルカの行動を解明するには、挑戦し続けなければならない。見えない水面下で多くのことが起こるし、イルカがあまりにも速く泳ぐので、充分に近づけないこともある。

 スナッブノーズとビビが、浅瀬での行動と同じような行動を取ったので、私たちは行動を詳しく観察できる機会を得て興奮した。一、二週間前に、スナッブノーズとビビが、見知らぬイルカを伴ってモンキー・マイアにやって来た。二頭はとても興奮していて、見知らぬイルカの周りで気もそぞろだった。浅瀬に来たことがなくて、人に近づいたこともないイルカが、浅瀬に入ってきたことはなかった。

 二、三日経つと、スナッブノーズとビビが、この見知らぬイルカを伴って浅瀬に入ってきた。私たちは、そのイルカをバスターと呼んだが、スナッブノーズはとくにテンションが上がって興奮していた。バスターの後にぴったりとくっついて泳いで、時々突進して、自分の顔をバスターの生殖器あたりに突っ込んだ。強烈なバジングと、ガーグリングを発し続けながら、見知らぬイルカの生殖器をチェックしていたようだ。

 ビビは、しばらくエサをもらっていたが、あきらかにそわそわしていた。ほんの一、二分で、顔を上げて口を開いて、魚をかすめ取り、スナッブノーズとバスターを見ながら、魚をがぶ飲みした。そして、スナッブノーズとバスターのところに戻って、スナッブノーズの横に並んだ。二頭のオスはバスターに突進して、生殖器をチェックした。バスターは横向きになって、水面で浮遊している。乳房スリットが見えるのでメスだが、腹の斑点もかなり多いので成熟している。二頭のオスが食物よりも興奮する理由は、もちろんセックスだ。

 スナッブノーズがエサをもらわないことなど考えられなかったが、浅瀬に入って、バスターのそばを一瞬たりとも離れない。すぐ近くで観光客が競って魚を与えようとしているのに、バスターに無我夢中で、寄り添ってスナッグしている。スナッブノーズが立て続けに出すノック音が聞こえる。ノック音は何度も聞いたことがあるが、このようなノック音を聞くのは初めてで、音はどんどん大きく強くなった。

 スナッブノーズは、白目をむいて興奮して、張り詰めてけいれんしているようだった。バスターの周りを急にグルグル回って、口を開いて、甲高いうなり声を上げた。スナッブノーズの気持ちが手に取るように分かった。あきらかにイラついていて、小さな円を描きながら、緊迫して泳いだ。スナッブノーズは、しだいに大きな円を描いて、バスターと並んでスナッグし、落ち着きを取り戻した。

 その直後、イルカたちは水しぶきを上げて岸から離れた。私はウエットスーツと、マスクと、シュノーケルをつけて、素早く後を追った。スナッブノーズとビビが、バスターの両側から近寄るのを二度見た。二頭はペニスを勃起させて、バスターに体をこすりつけた後で、私の目の前から離れていった。

 イルカたちはモンキー・マイアの浅瀬へ戻った。スナッブノーズはバスターのそばから離れずに、観光客にも近づこうとしない。バスターを見ていないときでも、全神経をバスターに向けて、バスターが何かするのを待っているようだった。観光客が腰まで水に浸かって、スナッブノーズに近づくと、スナッブノーズは、迷惑そうに頭を上げて離れていき、バスターのそばでスナッグした。

 観光客が餌づけを終えて空のバケツを抱えて浜に上がると、ビビがすぐに二頭のイルカに加わって、沖へ向かった。私たちはそれをきっかけにした。浜を降りてボートに乗って、イルカを追うために、錨を上げて浅瀬を出た。

 私たちが沖でイルカに追いつくと、ビビとスナッブノーズはバスターの後に並んでいた。オスたちはバスターのささいな動きにも神経を集中して、気を配りながら後を追っていた。バスターが少しでも動きを見せると、オスたちはバスターに突進して、水しぶきを立て攻撃した。それは、二、三日前にトリップス、バイト、セタスがヨギを攻撃したのに似ていた。私はイルカたちを見ていて、バスターを自由にしてやればいいのにとイラついたが、イルカたちは、一日中バスターにしつこくつきまとった。



 この観察には頭を悩ましたが、今振り返ってみると重要だ。なぜなら、これが、イルカに対する先入観をくつがえしたからだ。イルカは優しくて親切で楽しいと思っていたのに、ダークな面があるとは思いもよらなかった。興奮して攻撃的に行動するオスは、イルカのイメージに合わないと感じた。オスのこの行動を観察するまでは、イルカのばか騒ぎは単に遊びだと思っていた。しかし、私たちには遊びではないと思えたし、遊びだと断定もできなかった。とくに、スナッブノーズがダークな面を持っているのは、受け入れがたかくて、バスターを追って攻撃を仕掛けたのは、ショックだった。スナッブノーズが、強烈で甲高いうなり声を上げながらノック音を出したのは、大きなショックだった。獰猛な光が、突如として優しい茶色の目に宿ったのは、ほんとうのことだったのだろうか。


・・・
・・・
 オスはたたかう



 ホーリフィンを奪われた後、スナッブノーズ、ビビ、シックルフィンは負け惜しみで興奮していた。あきらかに敗者だった。アンドリューと私は、ボートに飛び乗って、スナッブノーズ、ビビ、シックルフィンを追った。リチャードはトリップス、バイト、セタス、ホーリフィンの近くにいた。私たちが三頭に追いつくと、ビビとシックルフィンは、激しく愛撫しあっていた。戦いに負けたので互いを再確認しなければならないようで、人の行動にたとえれば、露骨な負け惜しみに見えた。人にたとえると、こんなことをしゃべっているのではないか。



「いやあ、なかなかいい勝負だった。今までで、一番タフな戦いだった・・・。卑劣なチンピラからホーリフィンを取り返すぞ。いいかい、シックルフィン。そうさ、シックルフィン。ビビ、そうだよな、取り返すぞ」。



彼らが人ならば、互いに肩をたたき合っているだろう。イルカたちは距離を保ったままでトリップス、バイト、セタス、ホーリフィンの後を追った。ボートへ近寄ってきて、バウ・ライディング(へさき乗り)をして、神経質に素速く動いた。ピリピリしたイルカの感情が伝わってきた。

 スナッブノーズは他の二頭の後ろへ回った。ビビはシックルフィンから離れて、スナッブノーズの後を追った。シックルフィンとビビは、トリップス、バイト、セタスを追う力が回復してきた。初めは、スナッブノーズは、ホーリフィンにとち狂っていたのに、今は、ホーリフィンにほとんど気がなかった。一方、ビビはホーリフィンに一番気がなかったのに、今はこっけいなほど熱を上げている。スナッブノーズも、ビビから少しだけ力をもらって追いついてきた。三頭は調子を合わせて泳ぎ始めて、トリップス、バイト、セタス、ホーリフィンとの距離を縮めつつあった。イルカの声が聞こえてくるような気がした。



「おい、行こうぜ・・・来いよ、スナッブノーズ、ビクビクすんなよ」。



だが、イルカたちは三十五メーターくらいまで近づいて怖じ気づいたようだ。速度が落ちて調子が合わなくなり、神経質に動き回った。スナッブノーズが二頭の背後に回ると、シックルフィンとビビは激しく愛撫し始めた。



「まったく怖じ気づいたようだわ。とくにスナッブノーズは怖じ気づいているわ。トリップスとバイトとセタスと、これ以上揉めたくないようよ」

と無線でリチャードに連絡した。



 スナッブノーズ、ビビ、シックルフィンは元気を取り戻して、トリップ、バイト、セタスをさらに二度追った。しかし、近づくと、やはり怖じ気づいた。スナッブノーズは、とうとうテール・アウト・ダイブをして二頭から離れた。スナッブノーズはあきらかに決心していた。争うよりも食べたかったようだ。モンキー・マイアの浅瀬へ近づくにつれて、イルカたちの気分が上向いてきた。観光客の集団が魚の入ったバケツを手に持って、イルカが来るのを熱心に待っていたので、イルカたちはスピードを上げて泳いで、浅瀬で止まった。腹を砂につけて胸ビレで支えて、頭を持ち上げて口を開けた。イルカ好きの人に、エサをもらってガツガツと食べた。

 人がイルカに対して抱いている気持ちと、イルカの本質との間には、大きな隔たりがある。ビビを



「なんて可愛らしい女の子なの!」

と呼び続ける婦人もいる。私にとって、ビビは



「可愛らしい」

という言葉が一番似合わないイルカだ。



ビビのバトルは



「可愛らしい」

とは似ても似つかなかった。



「なんて目の優しい女の子」。



ビビの目には野性味があり、いたずらっぽくて、少し血走って見えた・・・気まぐれとでも言おうか。体の大きさは同じか、シックルフィンのほうがビビより大きいくらいなのに、この婦人は、シックルフィンがビビの子どもに見えたようだ。イルカの母娘(ホーリフィンとホーリー)がいるとうわさに聞いていたようで、二頭が母娘のように見えたに違いない。

 彼女はシックルフィンを



「なんて可愛い子どもでしょう」

と呼び続けた。シックルフィンが手にかみつくと、



「なんて生意気なんでしょ」

と言って笑った。



私はこの婦人と同じ惑星の住人なのに、まったく異なる現実があるのだと思った。都合がいいことに、



「タフガイのイルカには言葉が分からないんですよ」



 奥様!



 ビビとシックルフィンは、エサを食べ終わると、沖側にいるスナッブノーズに近寄って、リラックスした。オスたちは深みへと泳いだ。ビビがシックルフィンのわき腹に胸ビレを置くと、スナッブノーズも加わって、ビビのわき腹に胸ビレを置いた。だが、ビビは、向きを変えてスナッブノーズから離れて、シックルフィンの胸ビレに体をこすりつけ始めた。ビビがスナッブノーズとの触れ合いを止めたので、スナッブノーズは二頭から離れた。そして、三頭とも水面でスナッグした。

 スナッブノーズは、まもなくして列から離れて回遊し、ビビとシックルフィンに正面から近寄って間に割り込んだ。スナッブノーズを仲間はずれにしたので、二頭の触れ合いを壊そうとしているかのように見えた。スナッブノーズが、ビビの胸ビレに体をこすりつけても、ビビは、スナッグしたままで、スナッブノーズを冷たくあしらって、シックルフィンに寄り添った。

 イルカたちは長い間スナッグしていたが、最終的に北へ向かった。そして、午前中の大騒ぎで疲れ果てて、魚を食べて満腹になり、遠方のイルカが出す音を聞いていたが、ふたたび、北へ泳ぎ始めた。ビビは、スナッブノーズと少しだけ触れ合って、すぐにシックルフィンに近寄った。二頭は調子をぴたりと合わせて、水面に浮かんでいた。しかし、スナッブノーズは少し距離を置いていて、二頭とは調子が合わないようだった。私はスナッブノーズに少し同情した。

 ビビとシックルフィンが、ボートの鼻先でへさき乗りをしている。体を傾けて腹を向き合わせて、頭を細かく動かして、ひょうきんに振る舞った。この動作を数度繰り返してから、二頭は急に近寄って、体を傾けて、肩をぶつけ合って回転して、肩から尾のつけ根までを触れ合わせた。離れているときには、尾を上下に素早く振り、少し誇張した動きを見せた。この奇妙な儀式を何度か繰り返した。肩をぶつけ合い、調子を合わせて、回転して離れて、素早く尾を上下に振った。それは、フットボールの選手が好プレーをしたときに、頭をぶつけ合う仕草に似ていた。奇妙な儀式のような他の振る舞いもした。このような振る舞いは、オスとメスとで行なうよりも、オス同士で行なうことが多い。おそらく、ある種の



「戦いの踊り」

だろう。結束を固めるために、踊りながら力を鼓舞しているようだった。



 シックルフィンとビビは、「戦いの踊り」で興奮し、北へ向けてジャンプしながら、速度を上げて泳いだ。スナッブノーズも後を追った。私たちもイルカたちの後を追った。すると四頭目のイルカが見えた。三頭は調子を合わせて新たなイルカを追って、その背後に陣取った。私たちが追いつくと、オスたちは、このメスのポインデクスターに関心を向け始めていた。

 シックルフィンとビビは、ポインデクスターの横に行って、背中を曲げて頭を上下に振り、尾をたたいて下へ潜った。ポインデクスターは、まもなくして腹を向けて、ビビの腹に激しくこすりつけた。イルカたちが交尾したのかは、はっきりと分からなかった。



 ポインデクスターがシックルフィンに体をこすりつけて愛撫を始めると、ビビはすぐにスナッブノーズに近づいて愛撫した。そして、ポインデクスターが、ビビとシックルフィンの下に潜って体をこすりつけた。ホーリフィンとパックが、以前シックルフィンに対して取った行動と似ていた。しかし、ビビとシックルフィンは並んでスナッグし、互いに胸ビレをさわりあって、ポインデクスターを無視していた。

 オスの行動や、ポインデクスターとの関係や、オス同士の関係を見分けるのは難しかった。オスたちは、トリップス、バイト、セタスに負けた後なので、何とか面目を保とうとしていたのだろう。あるいは、ポインデクスターに近づいて、自分たちの気持ちの整理をしようとしているようにも見えた。ホーリフィンを二時間前に奪われて、オス同士で愛撫し続けていた。アンドリューと私は、この行動も人の行動にたとえた。オスのイルカの振る舞いと、十九歳の少年ギャングの振る舞いとが似ているので、私たちは笑わざるを得なかった。強さを張り合って、互いの男らしさを誇示し、確かめ合って自尊心を満足させる。こういう振る舞いをすると、オスたちは、いっそう馬鹿げて見える。

 三頭のオスとポインデクスターは、まもなくしてモンキー・マイアへ向かった。私たちは、モンキー・マイアから二・四キロ離れた地点にいた。引き潮だったので、イルカたちは浅瀬の土手を避けて、水深が充分にある場所に留まった。イルカたちは海底へ潜り、「林立」する海草に体をこすりつけた。シックルフィンはわき腹を気持ち良さそうに海草にこすりつけて、尾で海草を引っ掛けて海底からはぎ取った。海草をしばらく揺ら揺ら引きずりまわしていたが、そのうちに、海草は背後へ流れていった。

 シックルフィンとビビは時々愛撫しあった。ポインデクスターも時々二頭のオスと体をこすり合わせた。ポインデクスターが仰向けになり、シックルフィンの下へ入って、全身を回転させた。その様子は目を見張るばかりだった。ポインデクスターは腹部とわき腹を前後に動かして、シックルフィンの胸ビレにこすりつけた。シックルフィンの方は胸ビレを開いているだけだったのに、ポインデクスターが自ら進んで献身的に愛撫したので、ふたたび、私に疑問がわきあがった。



ポインデクスターがシックルフィンに純粋な愛を示しているのか?

シックルフィンを慰めようとしているのか?



やがて、スナッブノーズが後を追ってきて、時々へさき乗りをした。イルカは交友する代わりに、気楽にへさき乗りをする。

 オスたちはポインデクスターを引き連れて、モンキー・マイアへ戻った。ホーリフィンと関わり合った午前中とはうって変わって、オスたちはポインデクスターに関心を示さなかった。興味も示さなければ、動きに合わせて追うこともしない。背後に並ぶこともなければ、生殖器のチェックもしない。午前中、



興奮しすぎて疲れたのか?

ポインデクスターが魅力的でなかったのか?

もしそうなら、その理由は?



午後遅く、ポインデクスターは去って行ったが、オスたちは追おうともしなかった。その後、数週間はスナッブノーズ、ビビとシックルフィンは、ポインデクスターと共に行動することが多かった。しかし、オスたちの中途半端な気持ちが、手に取るように分かった。ポインデクスターはこのオスたちにはもてなかったのだ。



・・・

・・・


三頭で協力するほうが有利になる。だが、他の競争相手も、三頭目を仲間に入れるだろう。そして、三頭で同盟するのが当たり前になる。ひとつの同盟が他の同盟と二次的協力関係を結ぶと、数が倍増して有利になるが、競争相手も同様の協力関係を結ぶ。進化生物学者はこのような拡大を



「アーム・レース(軍拡競争)」

と呼ぶ。



イルカのオスが核兵器を作る手段を持たないことを神に感謝したい。



 私たちの研究対象の群れでは、オスのイルカはすべて同盟に属していた。例外的に単独のイルカもいたが、それは、同盟仲間が死んだ場合だった。シャーク湾のオスのイルカが同盟に属する理由はレゾンデートル(必須の存在理由)だ。オスは早い時期から同盟に属する。たとえば、クッキー、スモーキー、ジェシーの若い三頭のオスは、ここ二、三年内に誕生したが、赤ん坊のころから、時間の大半を共に過ごした。というのも、母がなわばりを共有していて、いつも出会っていたからだ。他の哺乳類の子どもと同じように、いっしょに遊んだりはしゃいだりした。イルカの寿命は長いので、この三頭が同盟を組むかが、明らかになるのは先のことだが、私は、この三頭が同盟を組むことを確信していた。

 私たちは、一九八二年にシャーク湾でイルカの観察を始めたが、そのときに、写真撮影した多くのイルカは、その後も同じ同盟を続けている。しかし、すべての同盟が安定していたわけではない。一九八〇年代に観察したオスの同盟のうち、いくつかは消滅した。シャーク湾で観察を始めたころには、三つの同盟がレッド・クリフ湾を支配していた。トリップス、バイト、セタス同盟、チョップ、ボトルフック、ラムダ同盟、リアルノッチ、ハイ、ハック、パッチズ同盟だ。年月が経って、ハックとパッチズが消えた。リアルノッチとハイの同盟は続いているが、トリップス、バイト、セタスも消えた。さらに、チョップとラムダも消えて、ボトムフックが残った(ボトムフックは後にリアルノッチとハイの同盟に加わった)。

 消えたオスのイルカが、どうなったかは分からない。自然死を遂げる場合もあるが、自然死でない場合もあり、オス同士で戦って死に至るか、あるいは、なわばりを変える場合もあると思う。

 リアルノッチ、ハイ、ハック、パッチズが、四頭同盟(リアルノッチとハイ、ハックとパッチズの二頭同盟の二次同盟)から消えたことは、納得がいかなかった。ある日、パッチズの仲間とトリップス、バイト、セタス同盟が、いっしょになってパッチズを激しく攻撃した。私たちが群れに出会ったときには、ハイがペニスを勃起させて、横からパッチズをつついていた。あきらかに、犬が行なうドミナンス・ディスプレイ(優勢示威行為)そのものだった。ごたごた騒いだ後で、混乱から急に明確な秩序ができあがった。六頭が横並びになり、パッチズと顔をつき合わせて、緊張の一瞬の後で、パッチズを攻撃した。一頭がかみついて、もう一頭が尾ビレでたたいて、パッチズを追い回した。私たちが追いついたときには、イルカたちは、パッチズと面と向かっていて、第二段の攻撃を始めた。その後、パッチズは水面に横たわり、首を曲げて頭をもたげた。こわばって、ぶざまな様子で、白目をむいて、悲痛な金切り声を上げた。パッチズは傷つけられたのに、翌日も、リアルノッチ、ハック、ハイといっしょにいた。四頭とも新しい傷がついていた。リアルノッチは目の上に深い切り傷ができ、パッチズは背ビレに新しい傷ができていた。

 これは一連の出来事のうちのひとつだ。リアルノッチとハイ、ハックとパッチズの二次同盟は最終的に解体した。ハックとパッチズの同盟も解体したようだった。パッチズを攻撃して一か月くらい経つと、ハックが姿を消した。そして、パッチズが永遠に姿を消すのにも長くはかからなかった。この二頭は、私たちの観察の合間に消え去ったが、その後は、この二頭と出会っておらず、その運命も分からないままだ。

 パッチズの仲間が、チョップ、ボトムフック、ラムダ同盟の助けを借りて、パッチズを追放した理由は分からない。パッチズがトリップス、バイト、セタスと絆を持とうとしたことが、その理由なのかもしれない。パッチズが同盟の仲間とではなくて、トリップス、バイト、セタスと群れをなして泳ぐのを見かけたときは、同盟を組んでいるとは思わなかった。パッチズは攻撃を受けた後でも、同盟の仲間ではなく、トリップス、バイト、セタスといっしょにいた。原因と結果がどうであれ、パッチズは、そのころトリップスたちに取り入ろうとしていた。



 オスのイルカがメスと生殖するために協力したり、争ったりする話や、メスを激しく攻撃して、捕えて交尾する話は、多くの人には受け入れがたかった。私たちはオスの協力と生殖行動について、科学雑誌に二、三の論文を発表した。予想と異なるという理由や、知的なオスのイルカが取る「不道徳な」行動は魅力的だという理由から、大手の報道機関が取り上げた。研究責任者のリチャードに記事や、撮影や、インタビューの依頼が殺到した。ニューヨーク・タイムズは



「イルカの求愛¦残忍、悪質、複雑」

というタイトルで、長文記事を掲載した。PBSのNovaドキュメンタリーは



「イルカのプライベート・ライフ」

というタイトルで、ドキュメンタリー・フィルムをプロデュースした。



 イルカは親切で笑顔に満ちていて、優しく平和な海の住民だ、という期待に反して、粗暴で利己的であるかもしれないという考えは、多くの人には受け入れがたいようだった。私たちにモンキー・マイアを紹介した優しい女性エリザベス・ゲイウェンは、オスが徒党を組んで、メスと生殖行動するという報告に恐れを抱いた。一九八八年、エリザベスがオーストラリアの私たちを訪ねてきたとき、スナッブノーズ、ビビ、シックルフィンが、モンキー・マイアの浅瀬で日々たけなわに生殖行動を取っていた。エリザベスはイルカの行動を見て、私たちの説明を聞き、私たちにこまごまと質問をした。オスの行動に



「より良い」

説明がつかないか



とつねに選択肢を探していた。ある日、ビビとシックルフィンが、メスにひどい攻撃を仕掛けるのを見た後で、



「絶対に認めたくはないけれど、あなたたちの説明が正しいと感じる」

と、エリザベスは目に涙を浮かべながら言った。



 エリザベスは大きな心と精神と魂を抱いて、心を開いてイルカを観察したが、最終的に、オスのイルカが粗暴な行動を取ることを受け入れた。しかし、他の人たちはさらに抵抗した。ある男は、私たちの研究結果の「あら探し」をして、私たちがイルカにパーソナリティを教え込んだにすぎなく、もしも気質が良い他の研究者ならば、モンキー・マイアのイルカも親切で優しいことが分かったかもしれないと、修士論文で主張した。「ご他聞」にもれず、その男は、イルカは永遠に優しい生き物だと含み置いた。

 最近になって、ハンドウイルカ(シャーク湾以外の)がネズミイルカを、理由なしに殺す様子が観察された。オスのイルカが、子イルカを殺す様子も観察された。このような不快な報告が報道機関に寄せられると、ニューヨーク・タイムズは



「イルカは殺し屋。証拠が上がる」

の見出しで、



「笑顔に満ちた哺乳類、不可解なダークな面を持つ」

の副題で、記事を掲載した。



私たちが、オスのイルカは生殖時にメスを捕えて、交尾の機会を独占する、と報告したときのように、イルカの行動の



「ダークな面」

は、ショックを伴って受け取られる。



 私たちが発見したオスのイルカの行動は、私個人としては、イルカへの尊敬を減ずるよりも、むしろ増やした。イルカは人以上のものでもなく、人もまたイルカ以上のものではない。イルカの行動は不思議で、複雑さや、深さや、繊細さに満ちていて驚くばかりだ。イルカは必ずしも親切で優しいだけではなく、同時に悪質で利己的でもある。人の基準では



「不道徳」

とさえ言えるが、



イルカも人と同じく、さまざまな面を持つ複雑な生き物だ。

--
Aoyagi YoSuKe - Art Harbour

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The Definition Of Art Harbour Blog



The Definition Of Art Harbour


Virtual International Trade Harbours Of Art


Opening Anniversary Date: December 1, 2006

Language: Multi Language


Each harbour can export the works toward the virtual world.

People and organization can import the works from all over the world.


Now,Item: Works on Art Activities that are expressed with Photos and Explanations etc.

Export Method: Each Harbour put the Works onto this blog

Import Method: People and Organizations accsess this blog

Order Method: People and Organizations put some comments about the Works onto this blog.


In the future, we will need transportation including trains,airplanes,ships, cars, buses etc.

in order to export and import people, goods etc. ?


Art Harbour


アート・ハーバーとは


アートのバーチャル国際貿易港


開港記念日:2006年12月1日

言語:マルチ言語


各港は、バーチャルな世界へ向けて、作品を輸出できる

人や組織などは、バーチャルな世界から、作品を輸入できる


現時点輸出品目: アートに関する活動などを「写真と文などで表現した作品」

輸出方法: 各港で作品をこのブログに書き込むことで、輸出したものとみなす

輸入方法: 人や組織が作品をこのブログで参照することで、輸入したものとみなす

注文方法: 感想などをコメントに入れることで、注文したものとみなす


将来、、、列車、飛行機、船、車、バスなどを利用して、リアルな人や物が輸出入できる?


アート・ハーバー

Multi Language

現時点では?


ブログは日本語ベース


Google Translatorで、各国語へ、変換




そして、現場で、リアルなコミュニケーションは?


英語ベースで、現地語がお愛想・・・


こんな感じかな?


Aoyagi YoSuKe

Art HarbOur


The Gaiaと各ハブは?


英語がベースで、Google Translatorで、各国語へ・・・

Copyright and Responsibility of AH Shimokitazawa blog



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各々でコピーライトの取り扱いをしなければならない。

コピーライトを主張するか破棄するかは各々に任される。


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アート・ハーバー 下北沢


Posting Rule - 掲載ルール




Introducing People, Works, Shops etc. related to Art Harbour as a spot ad.


As a general rule, the details such as map, price should be in the Official Sites related to the ad.

Each ad may contain the Official Sites' URL related to the ad.


Restriction: The Number of Photos is within 6(basically 3). about 640x480 pixel


Ad Size: Within about 2 standard printing papers.


Example: Spot ad. , Flyer, Live Report, Poem, Short Story, Illustraltion, Photo, Paintings etc.


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アート・ハーバーに関連した人、作品、店などをスポット広告として紹介する。


原則として、地図や価格などの詳細は広告に関連したオフィシャル・サイトに掲載する。


各広告には関連オフィシャル・サイトのURLを掲載しても良い。


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