解説 [編集]
船体中心(=ミッドシップ)という言葉の通り、エンジンが車の中心付近に置かれる構造のこと。 コンポーネントとして最も重量の大きいエンジンが車体中心近くに配置されるため、カーブで強い遠心力がかかってもアンダーステアやオーバーステアになりにくく、かつ、
ステアリング操作に対する反応が速いという利点がある。またリアドライブの場合はフロントエンジンに対してエンジンと駆動系の接続距離が短くなるため車重の低減にも有利である。
狭義では、運動性向上を目的として前後輪軸の中心もしくは中心に近い位置にエンジンを搭載した形式である。古典的なレイアウトでは縦置きエンジンによる後輪駆動で運転席は操舵系の許す限り前方として後方のエンジンに挟まれた位置に配置される。現代においてはF1をはじめとする
フォーミュラカーが狭義の解釈に忠実な車種である。
市販車では、技術の進歩によって初期のミッドシップ車に比べ車重に占めるエンジンの重量が相対的に減っていったことや、エンジンのコンパクト化によりエンジン配置の自由度が増したため、前輪軸と後輪軸の間にエンジンを搭載した形式、と広義の解釈に変わってきた。エンジン搭載位置が前後車軸中心より後方の後輪軸直前に搭載される市販のスポーツカーを典型的なミッドシップとして分類するのは広義の解釈である。
エンジンのミッドシップ配置は、加速時や登坂時における駆動輪のトラクションという観点からは後輪駆動もしくは四輪駆動の場合に有効であり、前輪駆動では駆動輪に十分なトラクションを得ることが出来ないという問題点がある。
歴史 [編集]
市販スポーツカーに於けるミッドシップ [編集]
市販車の
スーパーカーや
スポーツカーも、
1960年代から付加価値のひとつとしてミッドシップを採用する例が見られるようになった。 しかしミッドシップレイアウトを採用すると、車室やトランクのスペースが大きく制限されてしまい実用性に欠けるため、一般的な乗用車に採用された例はほとんどない。またミッドシップ車は上級ドライバーが高速で運転する際には操縦性の面でメリットが大きいが、カーブでの進入で荷重移動を怠ると曲がらない、旋回中にアクセルを開けると外側に押し出される、限界スピードを超えて滑り出すとフロントエンジン車などに比べ姿勢の修正が難しいなど、一般ドライバーには向かないという意見もある(アンダー・オーバー特性)。
ミッドシップはレーシングカーや高級スポーツカー(スーパーカー)にしか見られないものだった。しかしエンジン横置きの前輪駆動(FF)の小型乗用車のパワーユニットを用い、ミッドシップのスポーツカーを造るという手法(横置きミッドシップ)も登場した。
フィアット・X1/9(後に
ベルトーネブランドに変更)などがそのさきがけで、量産車のパワーユニットを流用しているため価格も安く抑えられるメリットもあった。
ポンティアック・
フィエロ、
トヨタ・MR2、
ローバー・
MG Fなどもこの手法で作られたミッドシップ車である。ただし横置きミッドシップはエンジンが後車軸のほとんど真上に位置する形になるため、エンジン重量が大きいものや
ホイールベースが長い場合、ミッドシップ本来の重量配分が得られない(前輪荷重不足)場合が多い。
前後比率は前4:後6~前3:後7程度が市販ミッドシップスポーツカーの前後重量比率である。そのためレーシングカーやスーパーカーの大半は、トランスミッションを含め、重心位置設定の自由度が高い縦置きである。
フェラーリは従来、12気筒のフラッグシップはエンジン縦置き、206・246(
V6)、308・328(
V8)の各シリーズは横置きエンジンであった。しかし
モンディアルT、
348シリーズ以降、トランスミッションは横置きのまま、エンジンと
クラッチを縦置きに変更している。フェラーリより早くにミッドシップを採用した
ランボルギーニの
ミウラは、
V12エンジンを
イシゴニス(
Issigonis)レイアウトで横置きとしていた。
テスタロッサの12気筒エンジンなど、全長の長いエンジンを縦置きする場合、4気筒分程度が後車軸より後ろにある事が多く、
マニアの間ではミッドシップと呼ぶべきかどうか議論の対象になることもある。
ミッドシップ車はエンジンが車軸間に有り外部からのアクセスドアの開口部を広く取れないため、整備性があまり良くなく作業工数が多くなることから工賃が高い傾向にある。工賃の高さは、殆ど輸入高級車である事が主であったのも理由ではあるが、MR2やNSXの場合はメーカーの整備工数によるとボンネットフードを持つフロントエンジン車両に比べて「少し」割高な程度で収まっている。
フォーミュラカーに於ける横置きミッドシップ [編集]
本格的レーシングカーでは、
ホンダの最初のF1マシンである
RA271が、
V12エンジンを横置きで搭載していた。2輪車メーカーとしての経験から、横置き(2輪車の大半はエンジン横置き)のほうが設計しやすかったため、という説がある。ただし整備性に難があったことに加え、
1966年にF1のレギュレーション変更でエンジン排気量が3リッターに拡大され、V12エンジンのサイズ的に横置きが困難となったことから、同年の
RA273以降は縦置き配置に改められている。
試作車・改造車 [編集]
ルノー・クリオ(スポールV6)、
ルノー・5(ターボ)の様に、FFのコンパクトカーをミッドシップに改造する例が見られる。 後年のNSXの開発基礎研究はCR-Xのミッドシップ版からであった、と開発責任者も語っている。
ミッドシップの細分化 [編集]
近年では狭義のミッドシップでなく、エンジン搭載位置を前後車軸間とする車種が増え、自動車メーカーがこれらを「フロント・ミッドシップ」(マツダ、日産)、「センター・ミッドシップ」(ホンダ)などと呼称している。
これに対して、運転席と後車軸の間にエンジンがある形式を「リア・ミッドシップ」と細分化したり、「フロント・ミッドシップは、狭義ではミッドシップとは呼べない」といった意見も存在する。なお、リアシート(ラゲッジ)下にエンジンをマウントする
三菱・iは「リア・ミッドシップ」構成と主張している。
フロント・ミッドシップ [編集]
1978年に登場した
サバンナRX-7が、前車軸と運転席の間にコンパクトな
ロータリーエンジンを置き、これを「フロント・ミッドシップ」と呼称した。 単純に前輪軸を「車両前方に」押し出す事でエンジン搭載位置を前後車軸間とした場合はホイールベースが伸びることによる運動性の低下を生じるが、サバンナRX-7は全長の短いロータリーエンジンを用いた専用の車種とする事で、エンジンの前車軸後方への搭載による重量の中央集中化やオーバーハングの軽量化をはかり、ハンドリングの向上を狙ったものである。
BMW・3シリーズ等の
直列6気筒と
直列4気筒を併設する車種では、全長のある
直列6気筒を搭載するとエンジンが前軸を跨ぐが、全長の短い4気筒エンジンでは前軸を跨がずに搭載できることや、エンジン重量の違いによって運動性の観点から理想とされる前後軸重量比になるなど、結果的にフロントミッドシップの形態となるグレードがある。
なお前車軸と運転席の間にエンジンが置かれるという構成自体は、
19世紀の末から
1950年代までの
FR車では一般的なレイアウトであり近年に限られたアイディアではないが、エンジンのコンパクト化による前後重量比やホイールベース/トレッド比の適正化による運動性能の向上という観点からは、フロント・ミッドシップを技術革新により生じた新たなミッドシップの形態とする意見もある。
これらのフロント・ミッドシップ車に対して、古典的なミッドシップの解釈による「運転席のすぐ後ろにエンジンを置き後輪を駆動する方式」から外れるとして、ミッドシップの形態と見なさない意見もある。
乗用車以外 [編集]
これらの車種については、有効床面積を最大限に確保するため(デッドスペースを減らすため)に床下にエンジンを置く点に注目してアンダーフロア形式に包括し、運動性への寄与の観点からミッドシップの形態と見なさない意見もある。
田宮模型の
ミニ四駆が「フロント・ミッドシップ」という呼称を採用したことがある(FMシャーシ、スーパーFMシャーシ。動力源は当然ながら内燃機関ではなく
電気モーターである)。
日本車に於けるミッドシップ [編集]
乗用車 [編集]
商用車 [編集]
関連項目 [編集]
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