イルカの里の人事は?
大学教授は管理職、学生はアーティスト
夏の終わりに、三人の科学者が訪ねてきた。私にとっては、動物行動学研究の永遠のヒーローたちだ。アーヴ・デボーはハーバードの文化人類学部長で、一九六〇年代に類人猿を研究したパイオニアだ。カラハリ砂漠のカン・ブッシュマンと、中央アフリカのピグミーの行動研究も行なっている。リチャード・ランガムはミシガン大学教授で、ジェーン・ゴダールのゴンベ川保護区で、生態学的観点からチンパンジーの行動を研究して、マッカーサー賞を受賞したばかりだった。バーブ・スマッツもミシガン大学教授で、ゴンベで研究して、“Sex and Friendship in Baboons”のタイトルの魅力的な本を出していた。三人が訪れたおかげで、イルカの観察は力を得て、私たちには自信もわいてきた。イルカを観察するときに、科学的な手法を導入する上で、不可欠なリーダーシップについても教えてくれた。
リチャード・ランガムとバーブ・スマッツは、リチャード・コナーの博士課程の担当委員だった。ふたりは、オスのイルカの行動を見て興奮し、リチャードに、博士論文はオスの行動に焦点を当てるように奨めた。アンドリューと私の大学院入学も、手助けすると言ってくれた。研究テーマを分割して、個々の能力がぶつかり合わないようにすれば、最終的に、私たちが良質の博士論文を仕上げられるはずだとも言った。私は、イルカのコミュニケーションに焦点を絞ることにした。アンドリューは、メスの社会的な関係に焦点を絞った。プロジェクトは、新段階に入り、各人がそれぞれプロジェクトを受け持ち、研究の領域と目標も明確になった。しかし、私は、ほとんどいつもアンドリューといっしょになって、オスのイルカを観察した。
それからの二年間は、毎日のように、オス同士の驚くべき複雑な関係が発見できた。オス同士で群れを作って、協力する性質があった。そこで、オスの同盟を
「アライアンス(同盟)」
と呼ぶことにした。オスは協力してメスに
「種つけ」
をする。
最初に、メスを選んで、そのメスを群れから拉致して、追いまわすのが、典型的な種つけだ。オスの群れは、メスの周りで示威行動をして、メスの背後を並んで泳いで、ノッキングする。メスの生殖器をチェックして、マウンティングもする。種つけは、荒っぽいことが多くて、オスの群れは、発作的に頭を上下させて、メスに向かって叫び声を上げる。攻撃がエスカレートすることも多く、メスを追いかけ回すこともある。通常、メスは、数時間から数週間だけ、オスの群れといっしょに過ごす。
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